バルミューダ、一目置かれる「芸術経営」の神髄 電機大手も見習う手法、目指すは売上高24兆円?

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百貨店の松屋銀座にある直営店(提供:バルミューダ)© 東洋経済オンライン 百貨店の松屋銀座にある直営店(提供:バルミューダ) 長引くコロナ禍で増えた「おうち時間」により、2020年によく売れた家電がある。『バルミューダ ザ・トースター』だ。

トースターの上部に付属の小さなコップで少量の水を注ぐことで、パンが焼けたときに「窯から出したばかりのような味」が再現できる点を売りにする。

価格は2万5850円とトースターの平均価格の4倍強の高級品。だが、2015年の発売から累計で100万台以上売れており、2020年4~6月期には販売台数の過去最高を更新した。

規模で勝る大手メーカーも一目置く

このトースターを看板商品に、空調家電、調理家電、掃除機などを展開するバルミューダ。同社が、2020年12月16日に東証マザーズへ上場した。当日は3社が上場したため買いは分散すると思われたが、公募価格より6割高い3150円の初値をつけた。足元の株価は5660円(1月7日現在)と順調なスタートを切っている。

2003年、元ミュージシャンの寺尾玄社長が1人で創業したバルミューダ(当時の社名はバルミューダデザイン)。その規模は、2020年12月期で売上高約120億円(前年同期比14.0%増)、当期純利益は約8億円(同26.9%増)。売上高で比較すると、パナソニックの家電事業が2兆3700億円(2021年3月期の見込み)、日立製作所も4530億円(同)と、大手家電メーカーが圧倒する。

それにもかかわらず、「(バルミューダから)学ばせていただくことは多い」(ある総合電機メーカー家電事業部の幹部)と、お手本としてみる向きがある。既存メーカーが学び取りたい、バルミューダの「強み」とはいったい何なのか。

1つは、自社工場を持たず、中国や台湾、国内の工場に製造委託することで、自社では企画開発と販売に注力する「水平分業体制」を敷いていることだ。ゆえに、営業利益率は10%と高い(パナソニックは3%、日立は5%。いずれも今期の見込み)。ただ、同様の戦略はソニーのゲーム機や一部の家電、任天堂、海外ではアメリカ・アップルなどがつとに採用している。

むしろバルミューダならではの強みといえるのが、すでに市場が成熟しきった汎用品の市場で、相場にとらわれない高単価で製品を販売していることだ。

同社が展開する扇風機やトースター、炊飯器などは、通常であれば製品の老朽化や故障などにより、「必要だから買い替える」際にしか需要は発生しない。さらに、春と冬の2度、商品の入れ替えを行い、新型が発売されるため「型落ち品」はセール対象となって価格競争が巻き起こる。

社長がだいたいの販売価格を決定

一方、バルミューダの商品の値付けは独特だ。寺尾社長が、この商品であればいくらまで出す、という「消費者感覚」(寺尾社長)に基づいて、開発の初期段階でだいたいの販売価格を決めてしまう。他社製品については「全然見ていない」(同、以下のカギカッコ内も同じ)。

さらに、1つの商品に対して展開するのは「バルミューダ ザ・〇〇」という1つの型だけで、廉価版など価格のバラエティーはない。一度発売したら、5年、10年と1つの型を発売し続け、定価販売が基本だ。

では、消費者はバルミューダのどのような点に価値を見出し、相場より高い家電を買っていくのだろうか。2020年12月下旬に行ったインタビューで、寺尾社長はこう解説する。

「バルミューダは、クリエイティビティーによってお客様に選ばれている会社です。クリエイティブとは、簡単にいえば『創意工夫』のこと。昨日までなかった方法を生み出すことです。当社は、創意工夫をして1つの商品を開発し、そこにいくつも工夫を重ねていく。たとえば、従来のトースターとバルミューダのトースターにはいくつも違いがある」

寺尾社長曰く、その1つが製品の「芸術性」を最高潮にまで高める工夫をしていることだという。たとえば、「そよ風のような扇風機」「窯から出したばかりのパンの味を再現するトースター」といったものだ。

これを担うのが、社長直轄の「クリエイティブチーム」だ。同チームでは、商品を購入することで消費者が得られる体験を設定する。それに基づいて、社内で「原理試作品」と呼ばれる製品の原型を作る。デザインを担うのもこのチームで、高年収の男性が多くを占める顧客から「デザイン家電」と支持される所以(ゆえん)はここにある。

芸術性を高めるうえでは、多くの場合で技術上の工夫が必要になるという。同社の場合は、エンジニアとクリエイティブチームが作った試作品とのすり合わせにより、短期間でブラッシュアップしていく。

カタログの表紙は「厚切りトースト」

トースターの場合は、「①水を投入して蒸気を発生させる②ヒーターの温度制御を細かく設定する」という2つの技術的な工夫をすることで、「窯から出したばかりのパンような味」を実現させた。

商品の見せ方にも工夫を凝らす。たとえば、トースターを発売したときは、商品のカタログの表紙に家電そのものを登場させず、焼けた厚切りトーストを並べた。

物語仕立ての開発背景も、バルミューダのブランド力を支える。たとえば、2020年11月に発売された掃除機には「これまでクイックルワイパー派で、掃除機を使うのがおっくうだった寺尾社長が、自分でも欲しいと思える理想的な掃除機を作り出すまで」という物語が用意されている。

この3つの工夫を重ねたうえで、品質管理や生産技術の検討、資金繰りなどを経て、委託先が量産に入るというのが、バルミューダの製品開発の基本スキームなのである。

こうした斬新な開発を担う社員の中には、「日の丸家電」からの転職者たちが多い。幹部クラスでも、取締役ビジネスオペレーション部長にパイオニア出身者、商品設計部長にソニーのエレキ事業の生産部門出身者が名を連ねている。どちらも、一時は業績不振に苦しんだ企業。そこでの失敗経験が、バルミューダでの斬新な企画・開発に生きているのかもしれない。

課題の管理体制を上場前に改善

もっとも、バルミューダにもアキレス腱がある。品質管理だ。2017年には扇風機、2018年にはトースター、そして2019年には電子レンジのリコールを発表している。中でも打撃が大きかったのは、トースターのリコールだ。スチーム機能での不具合による製品の自主回収・無償交換により、2018年12月期の業績は当期純利益が前年同期比95.7%減の3564万円となった。

実は、バルミューダがIPO(新規株式公開)を志した2015年前時点では、こうした品質をはじめ、コストなども含めた「管理体制」を強化することが、上場の目的だったという。

「売上高30億円くらいまでは『勘と気合とラッキー』で乗り切ることができた。だが、月次決算すら満足に出せない状態でそれ以上は大きくなれないと感じた。『こんな車、運転できねえ』と思って」(寺尾社長)。そこで同社の管理体制を”上場企業品質”に向上させるために使ったのが、上場を目指すという手だった。

その甲斐あって、「以前と比べものにならないくらい良い会社になったと自負している」と寺尾社長は胸を張る。では、名実ともに上場会社となったバルミューダはこれから、何を目指していくのか。

1つが、規模の拡大だ。そのために足元で推し進めているのが、客単価のさらなる向上である。2020年11月に発売された掃除機は税込み5万9400円と、これまでのバルミューダ製品で最も高価な製品だ。同社は、本商品に続けていくつかの新製品を投入し、このクリーナー事業を100億円規模にまで育てる見込みだ。

単価向上のうえでは、上場前に展開してきた生活家電というジャンルにはこだわらない。「客単価の高いものは、一般的に技術の集積度が高いもの。基盤にいくつ部品が乗っているかが重要だ」(寺尾氏)。今後は、2020年6月に発売されたスピーカーのようなAV(オーディオ・ビジュアル)家電のみならず、「家電以外のこともやっていくと思う」と示唆する。

120億円の売上高を2000倍に?

さらに、顧客基盤の拡大にも資金を投入する。上場で調達した資金の使途の3分の1は、広告宣伝などのマーケティング費だ。実はこれまで、バルミューダはテレビなどのメディア広告をほとんど打ってこなかったという。

現在、同社のブランド認知度は5割弱だが、これは商品の口コミや、広報活動によるメディアなどへの掲載などによるものだ。今後は、マスメディア向けのCMを打つことで、同社の製品のイメージを直接訴えかける狙いだ。

寺尾社長は、同社の成長目標についてこう語る。「創業初年度の売上高は600万円だった。18年経った今年は約120億円。2000倍になっている。私のポリシーとして、『一度できたことは必ずもう一度できる』というものがある」

計算すると、売上高24兆円になる。もし実現すれば、日本のトヨタやアメリカのアップルの背中が見えてくる規模だ。壮大な目標だが、規模拡大の過程でバルミューダが核とする「芸術性」を際立たせ続けることができるかが問われる。

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